夕庭のいづこに立ちてたづぬべき葡萄つむ手に歌ありし君

 

  夕庭のいづこに立ちてたづぬべき
  葡萄つむ手に歌ありし君
             山川登美子『恋衣』

 

 明治時代の女流歌人、山川登美子は数え歳二十三歳で結婚しました。

 

夫は将来を嘱望され、幸福が約束されたかのようでしたが、

 

登美子は二年経たないうちに夫を病気で亡くしてしまいました。


 当時の既婚の女性は、自由に好きな事ができたわけではありませんでした。

 

登美子も例外ではなく、結婚する前は

 

東京新詩社の機関誌「明星」に毎月たくさん短歌を発表し、

 

注目されていましたが、結婚後はあまり発表していません。


 夫を亡くした登美子は小浜の生家に復籍しました。

 

そして夫の死から半年余り経った後、夫への哀傷歌を「明星」に発表し、

 

再び注目されました。右に挙げた短歌はその中の一首です。

 

夕暮れの庭に、亡き夫の姿を探し求める切ない思いが詠まれています。

 

追憶の中の夫は葡萄を摘みながら何か楽しそうな様子です。


 この短歌の背景には、登美子が結婚生活の中で詠んで


発表しないままの短歌がありました。

 

「ふくませてその実のあぢをとひよりぬ葡萄つむ手に歌ありし君」

 

右の短歌と下の句が同じです。夫は摘みとったぶどうの実を登美


子の口に入れ、顔を近寄せながら、どうだ旨いか、などと尋ねたのでしょう。

 

二人で過ごした時間の甘美な思い出をたぐり寄せながら、

 

登美子は夫を偲んでいるのですね。

 

美しい愛の短歌です。


                                            りとむ短歌会所属 北野よしえ

 


                

 

 

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